押入れの中のジャーナリズム

「あなたはその時、何をしていましたか?」

こんな質問をされることがたまにある。例えば、東日本大震災の時に何をしていたか。僕は当時は関西に住んでいたし、ちょうど友達の家に泊まっていた日の事で、その瞬間はテレビでゲームをしていた。だから、少しして地上波のテレビをつけた時のそのテレビのなかで起こっていることの非日常のような違和感をよく覚えている。

別に大きな出来事の裏でなくたってそうだ。今だって、100人に聞けば100人が違うことを考えながら、違うことをしながら生きている。だから僕がこうしてブログを書いている「今」でも誰かにとっては、アイドルとのオフ会を楽しんでいる「今」だし、受けたくもない講習会に参加する「今」だし、女ヲタに気持ち悪いリプライを送っている「今」(全部Twitterのタイムラインにいた)なのだ。

 

そう、あの夜だって俺たちにとっては最高の「今」だったんだ・・・・

 

「は~デリヘル呼ぶか~。」一緒に宅飲みをしてた太郎ちゃんが急に言うもんだから、そろそろお開きなんてムードは一瞬でどこかにとんでいった。野球は9回の裏2アウトからでも感動的なドラマが待っている。飲み会の終わりでも「デリヘル」という「逆転のランナー」がでたのである。でも、ただ友達がデリヘルを呼んで気持ちよくなるだけじゃ面白くない。あと1本ヒットが出れば・・・!!!

 

「デリヘル呼んでいる間、俺ら押入れに隠れてていい?」

 

まだ引っ越したてで段ボールが積んである部屋の中で革命がおこった瞬間だった。すごくいい当たりだ!でもいや、まだだ。いくら仲が良くても自分の逝く姿なんて友達に見られたくないはずだ・・・恐る恐る太郎ちゃんの顔を見る。

 

「ええで。」

 

ええんかい。どういう貞操観念を持っているんだこいつは。ともかく逆転サヨナラ勝ちだ。そうと決まればもうここからはすごいスピードで事が決まっていく。俺は押入れの中で快適に過ごすための準備をしはじめて、靴なんか隠したりバレないようにちゃくちゃくと任務を遂行する。かと思えば「できるだけおっぱいが大きい子でお願いします。」と聞こえてきたリ、ベッドの上で半裸になりながら行為のイメージをしてたりこの時の3人のチームワークは完璧だった。

それにしても押入れの中は快適だった。ドラえもんが住み着く理由もわかった気がした。もし不倫がばれてもこの押入れなら快適に隠れられるな。なんて考えていたら

「はじめまして~よろしくお願いします。」女の声が聞こえてきた。

キタキタキタキタ!!!!ついにキックオフだ!!!

 

そのあと太郎ちゃんが適当な挨拶やらお金関係の話なんかをしていた。カード会社の人にデリヘルの店舗名を言う姿なんて普通は誰にだって見られたくない。でも俺は今その瞬間に立ち会っている・・・!この「今」がドキュメンタリーだ!!!全てを俺は見て歴史の証人になるんだ!鮮明に語り継いでいかなきゃならない!そう熱く心に誓った・・・・

 

 

 

 

はずだった。なのに俺は女がシャワーを浴びている間に寝てしまった。押入れの中で。自分でも書いていて意味が分からない。引っ越したてで荷ほどきも済んでいない部屋にデリヘル嬢と裸の男、押入れの中で寝る男。我ながらカオスすぎる状況だろう・・・

この瞬間に世界でなにか大事件が起きていなくてよかったと思う。

「あなたは、そのとき何をしていましたか??」

とてもうまく説明できる気がしない。